理事長ご挨拶

本研究会はアクリジンオレンジ(Acridine Orange: 以下AOと略す)の生物学的特性を利用した様々な疾患に対する治療法の基礎的、臨床的研究を幅広い研究分野で情報の共有をしながら推進していくことを目的として設立されました。

AOは19世紀後半にドイツで染料としてコールタールから抽出された色素であります。それ以降細菌の染色にはじまり様々な医療分野でいろいろな目的で使用されてきました。特に蛍光を発生することから細胞のDNAやRNAの定量的蛍光染色に利用されたり、様々な微生物の感染の早期診断や精子機能の評価などに利用されたりしています。

また体内の酸性度の強いところに集積する性質を利用して生体のpHのマーカーとしても用いられています。さらには光感受性物質としての性質も有しているだけでなく、がん細胞への選択的な強い集積を示すために励起光照射で強力な抗腫瘍効果を発揮することが知られていました。そのため古くから光線力学的治療(photodynamic therapy: PDT)への応用が試みられてきました。

しかし、細菌に対する変異原性があるために人体に対する発がん性が危惧され、人への応用は長く封印されたままでありました。しかし、実際には哺乳類に対する発がん性は証明されておらず、WHOのIARCという食品、薬物の発がん性を評価する機関でもcategory 3に分類され発がん性を証明するデータはまだ得られていません。

私たちは1990年代から骨肉腫を用いたin vitro、 in vivoの基礎的研究で、AO-PDTは骨肉腫に有効であることを証明しました。また同時にAOは光だけでなく低線量のX線照射でも同様の効果があることが判明し、放射線力学的治療(radiodynamic therapy: RDT)効果もあることを見出しました。これらの研究成果をもとにtranslational researchとして臨床応用の可能性を考えました。

実際には京都府立医科大学および三重大学で倫理委員会の承認のもとに1999年から人悪性骨軟部腫瘍への局所投与による臨床応用のパイロットスタディをスタートさせました。その結果腫瘍の切除範囲を縮小して患肢機能の温存を優先させたにもかかわらず、再発率は従来の広範切除と遜色なく、生命予後の悪化も認められませんでした。また手術直後の急性毒性は全くなく、5年以上の経過例でも発がん例は認めませんでした。

このようにAOを用いた光線および放射線力学的治療は臨床的にきわめて有用であると考えられます。またAOは悪性骨軟部腫瘍だけでなくその他のがんにも選択的に集積する可能性が高く、この治療法が多くのがんに応用可能になることも期待できます。今後この治療法を多くの患者さんに応用していただくためには皆さんにこの治療法の原理や手技を習熟していただく必要があります。また実際の効果を多施設間共同研究で広く検証する必要もあります。

本研究会はこのAO治療の普及を目指すことが第一の目標ですがAOの抗腫瘍効果のメカニズムについてはまだ十分には解明されておらず基礎的な研究が必要です。光や放射線の照射方法、照射量、装置などについてもまだまだ工夫と開発が必要です。またAOはどのようながんに効果があるのかもまだ分かっていません。さらにはAOには抗腫瘍効果だけでなく様々な生物活性があることが知られています。

これらのAOに関係する基礎的、臨床的研究を幅広く討論し、情報を交換する場として本研究会を利用していただければ幸いです。

世話人代表:楠崎克之